掲載記録


2000 ドールフォーラムジャパンVol.27

ドールフォーラムジャパン

DFJ
27号 REVIEW 特別枠  p7

「たましい」と「もの」の交差

十勝の新時代」 伽井丹彌展
8月18日〜11月29日
北海道立帯広美術館 コレクションギャラリー (北海道・帯広市)

 去る8月18日から11月29日まで北海道立帯広美術館では、帯広市在住の造形作家・伽井丹彌の作品展を開催した。同展は地元ゆかりの美術家たちを紹介するシリーズ企画「十勝の新時代」の第3回展にあたる。会場には1990年から今年にかけて制作された球体関節人形11体が展示された。
 薄暗い会場内に左右対称に配置された高さ1メートルを超える裸像は特異な存在感を放っていた。指先にいたるまで精緻に作り上げられたその作品は、エロティシズムやナルシズムといった深い精神性、魂のうごめきを映し出す。一方で、滑らかな球状の関節構造や角度によって見せる無機的な表情は、これらの作品が人造物であることを思い出させる。なまめかしさと無機質さの結合・未分化こそ、伽井丹彌の作品の特徴なのである。それは、官能的なゆらめきを放つ白く乾ききった人骨にも例えられよう。
 会期中の10月21日には、会場内で伽井丹彌自身によるパフォーマンスが上演された。人形を手に作者自らが舞い、その背景には作者や人形の映像が投影される。作者の動きは人形の姿を模し、あるいは映像と融合する。肉体・人形・映像という三つの位相の中で、虚像と実像とが入り交じるのである。
 ギリシアの神像、東洋の仏像、縄文の土偶…。太古より人間は人の姿を作り続けてきた。それは人体を模した単なる造形物ではなく、魂のよりしろとしての「人がた」である。不可視の精神世界と無機的な物質世界、あるいは虚と実の世界を結ぶ存在なのである。
 伽井丹彌の作品は、古代の「人がた」が宿してきたこの特質を現代に再生したものと言える。それは精神世界の表出に傾きがちな創作人形と現実世界の再現・再構築を目指す人体彫刻という、近代的な二項対立をリセットする。魂と物質の混交にこそ、伽井丹彌の造形の魅力とさらなる展開を感じるのである。

(鎌田享 北海道立帯広美術館学芸員)



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